雑誌/学会誌寄稿記事
※本論文は「真空誌」第49巻第2号(日本真空協会、2006年)に掲載されました。本文掲載に関しては日本真空協会の承諾のもと行われています。

高速検出器と高分解能粉末X線回折測定
PANalyticalアプリケーションラボラトリ
山路 功
 
1. はじめに

X線回折(XRD)法は、その操作が簡単であり、測定試料の前処理がほとんど不要で、基本的には非破壊で分析可能であること等の理由で、結晶相の同定、結晶構造解析、結晶子径、格子歪、応力、配向性の評価等、様々な用途において広い分野で用いられている解析手法である。更に、高分解能測定、精密測定、多数試料測定、微小・微量試料測定等の強いX線強度が必要なニーズが加わり、高出力X線管球や回転対陰極等、X線源の出力を上げる工夫が行われてきた。ただし、回転対陰極は、そのメンテナンス性やランニングコスト、エネルギー消費の面で問題がある。近年では、高輝度で平行性が高い、放射光を用いた高分解能測定X線回折も行われているが、使用範囲が限られており実験室レベルの用途には適さない。

最近では、X線管球の出力を従来のままにして、測定スピード、X線の検出感度のみを向上させた、高速半導体アレイ検出器が発売された。この検出器を集中光学系で使用した場合、粉末試料に関する測定時間が従来のシンチレーションやガス封入型検出器と比較約1/100に短縮することが可能となった。また、この検出器においては、測定時間の短縮のみならず、角度分解能に優れた特性をも持ち合わせている。

本報告の中では、この高速検出器を一次側にモノクロメータを備えた、高分解能粉末X線分析装置とを組み合わせ、従来は困難をきわめていた高速・高分解能粉末X線回折測定が可能となった、その装置と応用例を紹介する。

2.装置概要

2-1 高速半導体アレイ検出器(X’Celerator)の動作原理

X’Celeratorは平行分割型の半導体検出器で、その数は100チャンネル以上からなる。従来の集中法の場合、X線管のターゲット、多結晶試料、受光スリット(Recieving Slit)をローランド円上に配置する光学的条件をとり、試料は水平配置のまま1次側(X線源)及び2次側が同時に稼動し走査を行う(θ-θスキャン)。このとき回折ビームは受光スリット位置でフォーカスを結び、強度が大きく良好な分解能を持つデータを得ることが出来る。また、入射X線が角度に拡がりを持っており、配向が異なるより多くの結晶子が回折に寄与していることも集中法の特徴でもある。

図1に2次側(受光側)にX’Celeratorを搭載した場合の光学系模式図を示す。

図-1 Schematics of focusing-type measurements by using a semiconductor array detector(Focusing optics)
図-1 Schematics of focusing-type measurements by using a semiconductor array detector(Focusing optics)


X’Celeratorは走査方向に対して100チャンネル以上で分割された半導体アレイ検出器であり、従来の集中法での受光スリット位置に配置する。X’Celeratorを配置した光学系は図1のように従来の集中法の光学条件を満たしており、θ-θスキャンによってデータを収集する。分割した検出素子は単独のデータ同時取り込みを可能にし、スキャンの過程で全検出子が通過した2θ角度に対しチャンネル数積算した強度データが得られる。即ち、図1の上図のとおり、試料からの特定回折線についてX’Celeratorの最上部にある検出素子にて検出を開始し、その後、X’Celeratorが連続的に動き、図1下図のとおり最下部へ移動するまでの間、順次、検出素子が回折線を検出する。つまり、同じ回折線に対して100回以上積算を行っている事になるが、勿論、異なる結晶面からの回折線に関しても、異なる検出素子が順次、連続的に積算し検出を行う。

この方式がRTMS(RealTimeMultipleStrip)テクノロジーと呼ばれるものである。このテクノロジーによってスキャンが行われている間、X’Celeratorは各反射について、より長い時間回折線を追いかけて測定し、最終的に全チャンネルで得られた強度を積算し、表示することが出来る為、粉末試料など配向の小さな試料についても、従来比約100倍の積算強度データ取り込みを可能にしている。

2-2高分解能集中光学系粉末X線回折装置

この装置は、図-2に示すとおり、1次側光学系にヨハンソン型Ge(111)モノクロメータを配した集中光学系であり、このモノクロメータにより、X線を単色化し、Kα1線のみを取り出し測定に用いる。X線管球から出射されたX線は、湾曲モノクロメーターを介し等距離で集光する配置になっている。また、X線管球を一次側モノクロメータとダイバージェンススリット間にある集光位置へ移動することも可能で、通常のα1,2線を用いた、粉末X線回折装置としての測定も可能となっている。X線強度は通常のα1,2を用いた装置に比べX線光路が約2倍長になり、更に、モノクロメータでの吸収が生じるため約1/4となるが、検出器に従来の比例計数管と比較して約100倍の計数が可能な半導体アレイ検出器を用いる事により、短時間での測定が可能となる。

図-2 High speed and high resolution powder diffractometer optics
図-2 High speed and high resolution powder diffractometer optics

2-3 高分解能平行光学系粉末X線回折装置

高分解能平行光学系粉末X線回折装置の光学系を図-3に示す。1次側光学系は、多層膜ミラーにより、平行性を高め、更にGe(220)チャンネルカットにより2回回折させる事により、発散角を24秒に抑えることができる。このチャンネルカットは4回回折のものもあり、この場合の発散角は19秒となる。いずれの場合でも、Kα1のみが取り出せる。試料は、キャピラリーに充填し、ゴニオメータの回転中心に設置する。測定手法は、透過法(デバイシェラー光学系)となる。検出器は半導体アレイ検出器を用いる。

図-3 High resolution parallel beam powder diffractometer optics
図-3 High resolution parallel beam powder diffractometer optics

2-4平行法における高速半導体アレイ検出器の動作原理

平行光学系では、回折X線は集光しない為、受光側に平板コリメータ等を用いて角度分解能を上げる事が必要である。しかしながら、高速半導体アレイ検出器には、平板コリメータはその構造上、使われていない。この場合、角度分解能はX線照射幅の影響を受ける事となる。よって、X線照射幅を抑える事により高分解能の測定が可能になるので、測定試料は、細いキャピラリーを使用したデバイシェラー透過法となる。図-4左は、太いキャピラリーを使用した場合の模式図で、異なる位置に存在する同じ結晶面間隔からの回折X線が、高速半導体アレイ検出器の異なる部分で検出する。これによって、角度分解能が悪くなる。一方、図-4右は、キャピラリー径を細くした場合の模式図で、回折X線の広がりは抑えられている。高分解能測定には、0.3〜0.5mmのキャピラリーを用いる事により、高分解能集中法粉末X線回折装置と同等の半値幅が得られる。 また、この方法では、質量吸収係数の大きな物質を測定する場合、X線強度の減少が大きくなるが、高速半導体アレイ検出器を用いた場合、集中法と同様に、同じ回折線に対して100回以上積算を行う事となり、従来のポイント検出法と比較した場合、測定時間の短縮化が可能である。さらに、透過法の場合、配向の影響を軽減するという利点もある。

図-4 Schematics of wide or narrow capillary for sample holder for parallel beam optics
図-4 Schematics of wide or narrow capillary for sample holder for parallel beam optics


3.高速半導体アレイ検出器の分解能と測定速度の評価

3-1角度分解能の評価

試料にNIST SRM1976(コランダム)を用い、その半値幅より、高分解能集中光学系粉末X線回折装置の分解能の評価を行った。θ-2θスキャンを20゚〜120゚(2θ)の範囲にて行い、半値幅の2θ角度依存性をプロットした結果が図-5である。

図-5 Relation between FWHM and diffraction angle
図-5 Relation between FWHM and diffraction angle

FWHM=(Utan2θ+Vtanθ+W)1/2 (1)


スキャンにより得られた半値幅(゚)の値は実線で示す理論曲線に沿った結果となっている。この理論曲線はCagliotti関数として知られ、式(1)に示すU、V、Wの定数で表す事が出来る関数で、主にリートベルト解析などに用いられる。また、最低角度の(012)における値は最小半値幅の0.037゚を達成し、装置および検出器の持つ分解能特性の優位性が実証された。

3-2 半導体アレイ検出器の測定時間評価

半導体アレイ検出器の測定時間の評価を行うために、通常のα1,2線を用いた、粉末X線回折装置にて比例計数管との比較を行った。半導体アレイ検出器を用いた光学系において、1ステップあたりの計数時間が同等となる測定条件で測定を行い、その結果を評価した。

測定はθ-θタイプ縦型X線回折装置、2.2kW・Cuターゲット封入管(PANalytical社製 X’Pert PRO MPD)にて行った。1次側に発散スリット1°を用い、受光側には半導体アレイ検出器とXe比例計数管(散乱防止スリット1°、受光スリット0.1mm、湾曲モノクロメータ)を使用し、Bragg-Brentano法にて20〜80°(2θ)の範囲を走査を行い、測定時間の比較を行った。尚、X線出力はいずれも45kV40mA(Cu封入管)とした。評価にあたっての試料はNIST SRM1976(コランダム)を使用した。

測定時間は、回折線強度の積算カウントが等しくなるように、半導体アレイ検出器では1分51秒、比例計数管では2時間56分に設定した。

図-6に半導体アレイ検出器(1分51秒)の測定を行ったときのピークプロファイルと、従来の比例計数管(2時間56分)を使用したスキャン結果を重ねて示す。両測定データ共に測定範囲の全域に渡り、ほぼ同じX線強度のピークプロファイルが得られ、測定時間は著しく異なるものの、検出感度に相違のないことが確認できる。また、重ね合わせの一部拡大図を図-7に示す。回折線の正味強度比較のため、両データはバックグラウンドを除去する処理を施している。

図-6 Comparison between powder diffraction data which is taken by semiconductor array detector and conventional detector
図-6 Comparison between powder diffraction data which is taken by semiconductor array detector and conventional detector


4 高分解能粉末X線回折装置と通常の粉末X線回折装置との測定時間比較

通常のα1,2線を用いた粉末X線回折装置と、α1線のみによる高分解能集中光学系粉末X線回折装置との測定時間の比較を行った。両装置共に、検出器は半導体アレイ検出器を用い、1ステップあたりの計数時間が同等となる測定条件で測定を行い、その結果を評価した。

測定は、通常のα1,2線を含む粉末X線回折測定には、 PANalytical社製X’Pert PRO MPD、また、高分解能集中光学系粉末X線回折の測定には、PANalytical社製X’Pert PRO Alpha-1にて測定を行った。いずれの測定でも、X線管球は2.2kW・Cuターゲット封入管(45kV、40mA)を使用し、測定試料には、Quartzを用い、20〜70°2θの範囲を0.017°ステップで測定を行った。

測定時間は、回折線強度の積算カウントが等しくなるように、通常の粉末X線回折測定では2分07秒、高分解能集中光学系では9分07秒に設定した。図-7に高分解能集中光学系(9分07秒)での測定と、通常のα1,2線を用いた、粉末X線回折装置(2分07秒)の、石英の5重線部分のスキャン結果を拡大し重ねて示す。

高分解能集中光学系では、通常の粉末X線回折測定と同等の回折X線強度を得る為に、約4.3倍の測定時間を要した。但し、通常の広角の測定が10分前後で出来る事には実用上何ら問題が無く、むしろ、α2による回折線を完全に除去出来る事や試料に含まれる元素には依存するものの、1次モノクロによりバックグランドが低くなる事など、データ処理を行う際の利点がある。

図-7 Comparison between high resolution powder diffraction data and conventional data
図-7 Comparison between high resolution powder diffraction data and conventional data


5.応用例

5-1 低濃度試料の高分解能定量分析

高分解能粉末X線回折装置の応用例として、低濃度結晶相の定量分析を試みた。主成分と微量結晶相の回折X線が近接し、ピークの重複によりX線回折法による定量分析が困難な場合がしばしば見受けられる。

図-8に、高分解能粉末X線回折装置(PANalytical社製X’Pert PRO Alpha-1 X’Ceraletor付)と通常の粉末X線回折装置(PANalytical社製X’Pert PRO MPD X’Celerator付)にて測定を行ったプロファイルを重ね合わせて示した。定量する結晶相であるアセトアルデヒド系の物質の濃度は0.5wt%で、8.05°2θの回折線がこの結晶相の最強線であり、その他の回折線は主成分と重なってしまい、分離は困難であった。また、主成分である乳糖(Lactose)には8.20°2θに回折線が有り、0.5wt%の測定結晶相の回折線との差は僅か0.15°であった。通常の粉末X線回折装置による測定では、これらの回折線は充分に分離できず、定量は困難であった。しかしながら高分解能粉末X線回折装置では、これらの回折線は容易に分離ができ、定量分析が可能となった。図-9に、濃度が5wt%〜0.25wt%の異なる試料を高分解能粉末X線回折装置にて測定した結果を示す。

図-8 X-ray powder diffractogram for low concentration of medicine
図-8 X-ray powder diffractogram for low concentration of medicine


図-9 X-ray diffraction patterns for different concentration of medicine
図-9 X-ray diffraction patterns for different concentration of medicine


5-2 シンクロトロンとの比較

高分解能平行光学系粉末X線回折装置とシンクロトロン(英国Daresbury Laboratory)での測定結果の比較を行った。検出器やX線波長、検出器等の測定条件は、異なるものの、光学系は同じ透過法(Debye-Scherrer)にて測定を行った。

測定試料は、Tetracycline Hydrochloride(C22H25ClN2O8)で、これを0.5mm径のキャピラリーに充填し測定を行った。

測定時間は、シンクロトロンは5時間、半導体アレイ検出器を用いた高分解能平行光学系粉末X線回折装置では、36時間とした。測定条件を表-1に示す。

表-1 Measurement condition
表-1 Measurement condition


X線回折測定結果の比較を図-10に示す。尚、使用しているX線波長が異なるため、横軸を結晶面間隔とし、比較を行った。図-10中の上図がシンクロトロンによる測定結果で、下図が半導体アレイ検出器付高分解能平行光学系粉末X線回折装置による測定ピークプロファイルである。測定時間はシンクロトロンと比較し、約7倍かかっているものの、実験室装置でシンクロトロンとほぼ同等な測定結果が得られた。

また、得られた回折パターンを基に、Pawley Fit法により格子定数を求めた結果を表-2に示す。

図-10 Comparison between synchrotron pattern and high resolution powder diffraction pattern
図-10 Comparison between synchrotron pattern and high resolution powder diffraction pattern


表-2 Pawley Fit results
表-2 Pawley Fit results


6 まとめ

市販の1次モノクロメータ付き粉末X線回折装置に半導体アレイ検出器を組み合わせることにより、高速・高分解能の粉末X線回折パターンの測定が可能となり、放射光測定の予備実験にも利用されつつある。また、この高速測定を利用して、湿度や温度又は圧力などの条件をin-situで変えながら、時間依存での測定をはじめ、幅広い応用分野に利用されつつある。

<参考文献>
  1. 中井 泉、泉 富士夫:粉末X線回折の実際(朝倉書店、東京、2002)p. 118, p. 128
  2. 加藤 誠軌:X線回折装置(内田老鶴圃、東京、1990) p. 128

 
  


  

 
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